2026年9月16日、日本は歴史的な防衛政策の転換点に立っています。長らく「GDP比1%枠」という制約の下で推移してきた防衛費は、近年、急速に厳しさを増す国際情勢を背景に、大幅な増額路線へと舵を切りました。2022年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、2027年度までに防衛費を北大西洋条約機構(NATO)加盟国が目標とするGDP比2%に引き上げる方針が明記され、その実現に向けた具体的な取り組みが加速しています。
しかし、この動きは単なる通過点に過ぎないかもしれません。現在、日本政府、特に高市政権内では、防衛費をさらにGDP比3.5%へと引き上げる新たな中期目標の設定が検討されているとの報道がなされ、国内外で大きな注目を集めています。これは、中国の軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイル開発の活発化、そしてロシアによるウクライナ侵攻といった地政学的リスクの高まりに加え、同盟国である米国やNATOからの「応分の負担」を求める声が背景にあります。
本稿では、防衛・安全保障の専門ライターとして、日本の防衛費がGDP比3.5%への引き上げを検討するに至った背景と経緯、現在の最新動向、そしてそれが日本の安全保障、自衛隊、そして国際社会における日本の役割にどのような影響をもたらすのかを多角的に分析します。この歴史的な転換が、日本の未来に何をもたらすのか、深く掘り下げて考察していきます。
背景・経緯
日本の防衛費がGDP比3.5%への引き上げ検討という、戦後日本の防衛政策における画期的な議論が浮上した背景には、複雑かつ多層的な要因が絡み合っています。その経緯は、冷戦終結後の国際情勢の変化、特に2010年代以降の東アジアにおけるパワーバランスの激変、そして2022年のロシアによるウクライナ侵攻が決定的な転換点となりました。
まず、最も喫緊の背景として挙げられるのは、日本を取り巻く安全保障環境の劇的な悪化です。中国は過去30年間で国防予算を約28倍、過去10年間でも約2倍に増加させ、2025年度には日本の防衛関係費の約4.4倍に達すると見込まれるほどの軍事大国へと変貌を遂げました。その軍事力は、海洋進出の活発化や台湾周辺での軍事的圧力の強化として顕在化しており、日本のシーレーンや南西諸島への潜在的な脅威となっています。また、北朝鮮は核・ミサイル開発を活発化させ、日本を射程に収める弾道ミサイルの発射を繰り返すことで、地域の緊張を高め続けています。さらに、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、「力による現状変更」が現実のものであることを世界に突きつけ、日本も地政学的リスクを無視できない状況にあることを再認識させました。これらの要因が複合的に作用し、日本の防衛力強化の必要性がかつてないほど高まっています。
次に、長らく日本の防衛政策を縛ってきた「GDP比1%枠」からの転換と、国際的な「応分の負担」への要請が挙げられます。1976年に三木武夫内閣が閣議決定した「GNP比1%枠」は、「軍事大国にはならない」という日本の平和国家としての姿勢を示す象徴であり、国内世論や周辺諸国の警戒感を考慮したものでした。1987年に中曽根康弘内閣がこの枠を撤廃したものの、その後もGDP比1%が事実上の上限として強く意識され続けました。しかし、2010年代に入り、特に第2次安倍政権以降、防衛関係費は当初予算ベースで一貫して増加傾向に転じました。そして、ウクライナ侵攻を契機に、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防費をGDP比2%に引き上げる目標を掲げたことに追随する形で、日本も2022年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」において、2027年度までに防衛関連費をGDP比2%に引き上げる目標を正式にコミットしました。これは、長らく続いた「1%枠」を実質的に超える歴史的な転換点となりました。
さらに、米国からの圧力と国際的な「応分の負担」を求める声も、防衛費増額の大きな要因です。米国は長らく同盟国に対し、防衛費の増額を求めてきました。特にトランプ米大統領政権からは、日本に対して防衛費をGDP比3.5%に引き上げるよう非公式に打診があったと報じられています。日本政府はこの報道を否定しているものの、NATOが2035年までにGDP比5%(うちコア防衛支出3.5%以上)という新たなコミットメントを採択するなど、国際社会全体で防衛費増額の動きが強まっています。日本も主要な同盟国として、国際的な安全保障に「応分の負担」を果たすべきだという要請が高まっているのです。
このような背景の下、防衛費増額の経緯は加速しています。2022年12月の安全保障関連三文書の閣議決定により、2027年度までに防衛力整備とそれを補完する取り組みを合わせ、予算水準をGDP比2%に達するよう措置する方針が示されました。そして、2026年9月現在、高市政権は、防衛費のGDP比2%達成時期を、現行の「2027年度」から「2025年度」へ前倒しする方針を表明しており、その実現に向けた動きは加速しています。さらに、2026年9月15日には、日本政府がNATOや他の米国の同盟国と足並みを揃え、防衛費を名目GDP比3.5%に増額する新たな中期目標の設定を検討しているとの報道がなされました。これは、韓国が表明している10年で防衛費を名目GDP比3.5%に引き上げることや、3%とすることなどが選択肢として検討されているとされます。
歴史を振り返れば、日本の防衛費は戦後の平和主義と経済成長、そして国際情勢の変化に大きく影響されてきました。戦後から1970年代にかけては、高度経済成長とともに防衛関係費も増加しましたが、1976年のGNP比1%枠で抑制が図られました。1980年代に1%枠は撤廃されたものの、冷戦終結後もGDP比1%前後で推移し、実額もほぼ横ばいでした。しかし、2013年の国家安全保障戦略の策定を契機に防衛費は増額に転じ、2020年代以降はウクライナ侵攻を機に大幅な増額と「2%目標」が設定されるに至りました。そして今、その目標をさらに上回る3.5%への引き上げ検討が浮上しているのです。これは、日本の防衛政策が、戦後最も大きな歴史的転換期を迎えていることを示しています。防衛費の増額を単なる「コスト」ではなく、経済成長や科学技術基盤強化への「投資」として捉え、国内の防衛産業基盤を強化することで、雇用創出や技術革新に繋がる可能性も指摘されており、多角的な視点から議論が進められています。
最新動向
2026年9月16日現在、日本の防衛費を巡る議論は、GDP比2%目標の達成に向けた具体的な進捗と、さらにその先を見据えたGDP比3.5%への引き上げ検討という二つの大きな潮流の中で展開されています。
まず、GDP比2%目標の達成に向けた動きは着実に加速しています。政府は、2023年度から2027年度までの5年間で総額43兆円を投じ、防衛力整備とそれを補完する取り組み(インフラ整備、海上保安庁の能力強化、経済安全保障関連経費など)を合わせて、2027年度にGDPの2%水準を実現する方針を示しています。この計画に基づき、防衛関係費は毎年約1兆円のペースで積み増しされており、その規模は歴史的な水準に達しています。
具体的な数字を見ると、2022年度の防衛関係費は5.4兆円でしたが、2023年度は6.8兆円、2024年度は7.9兆円、そして2025年度は8.7兆円と増加の一途を辿っています。そして、2026年度当初予算では、防衛関係費の総額は9兆353億円に達し、一般会計歳出のおよそ7.4%を占める見込みです。さらに、他省庁予算で安全保障に活用できる公共事業費や科学技術研究費なども含めた「安全保障関連経費」の総額は約11兆円に上るとされています。2026年度の名目GDP見通しが約690兆円であることから、「安全保障関連経費」の名目GDP比率は1.6%程度となる計算であり、2%目標達成に向けて着実に進捗していることが伺えます。高市政権は、このGDP比2%達成時期を、現行の「2027年度」から「2025年度」へ前倒しする方針を表明しており、さらなる加速が期待されています。
このような2%目標達成に向けた動きと並行して、防衛費をGDP比3.5%に引き上げるという、より野心的な目標設定の検討が浮上していることが、2026年9月15日の報道で明らかになりました。高市政権が、NATOや他の米国の同盟国と足並みを揃え、防衛費を名目GDP比3.5%に増額する新たな中期目標の設定を検討していると報じられています。これは、NATOが2035年までにGDP比5%(うちコア防衛支出3.5%以上)を目指す合意を採択したことや、韓国が10年で防衛費を名目GDP比3.5%に引き上げることを表明していることなど、国際的な防衛費増額の潮流と連動する動きと見られています。
仮に2026年度の名目GDP(約690兆円)を基準にGDP比3.5%とする場合、「安全保障関連経費」は約24.2兆円となり、現在の約11兆円から実に13兆円程度の上積みが必要になると試算されています。これは、現在の防衛関係費の約2.7倍に相当する規模であり、実現すれば日本の財政、経済、社会に計り知れない影響を与えることになります。
この巨額な防衛費増額の財源確保は、依然として大きな課題です。政府は、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入に加え、法人税、所得税、たばこ税の増税で安定財源を確保する方針を示していますが、自民党内からも増税への異論が根強く出ており、国民や経済界からも慎重な意見が相次いでいます。2027年1月からは所得税の増税が予定されていますが、復興税の引き下げとセットのため、当面の手取りは変わらないとされており、さらなる増税には国民の理解が不可欠です。少子高齢化による社会保障費の増加や巨額の政府債務の利払い費など、財政圧迫要因が山積する中で、防衛費のさらなる増額は極めて重い選択となります。
防衛省は、防衛費の増額について「金額ありきではなく、大事なのは防衛力の中身だ」との姿勢を示しており、単なる予算規模の拡大に留まらず、実効的な防衛力強化に繋がるよう、具体的な整備計画を進めています。防衛力整備計画では、スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力・国民保護、持続性・強靱性の7つの分野を中心に強化が進められています。特に無人機への支出は大幅に増強される見込みで、2025年度の予算要求では約3倍の3130億円が求められており、未来の戦い方を見据えた投資が加速しています。また、自衛官の処遇改善や施設の老朽化対策など、「人」と「インフラ」への投資も重要な柱として位置づけられています。
これらの最新動向は、日本が国際情勢の緊迫化と国際社会からの要請を受け、防衛政策の歴史的な転換期を歩んでいることを明確に示しています。GDP比2%目標の達成に向けた着実な歩みと、その先にある3.5%への引き上げ検討という新たな議論は、日本の安全保障のあり方を根本から問い直すものとなるでしょう。
軍事・戦略的分析
日本の防衛費がGDP比3.5%へと引き上げられる可能性は、日本の軍事戦略、防衛力整備、そして国際的な安全保障における役割に、抜本的な変革をもたらすでしょう。これは単なる予算規模の拡大に留まらず、日本の安全保障ドクトリン、すなわち「専守防衛」の概念そのものにも深く影響を及ぼす可能性があります。
まず、防衛力の抜本的強化は、日本の軍事戦略の重点を大きく転換させることになります。これまで「専守防衛」を基本としてきた日本の防衛方針は、反撃能力の保有、南西諸島の防衛強化、そして領域横断作戦能力の構築といった、より現実的かつ抑止的な防衛体制への転換が進められています。GDP比3.5%という規模の防衛費は、これらの戦略的目標を飛躍的に加速させる基盤となります。
具体的には、以下の分野で大幅な強化が期待されます。
- 反撃能力(スタンド・オフ防衛能力)の強化: 長射程ミサイルの導入・開発が加速し、敵の射程圏外から脅威を排除する能力が向上します。これは、敵基地攻撃能力の保有という議論を経て、日本の抑止力を高める上で不可欠な要素と位置づけられています。巡航ミサイル「トマホーク」の導入や国産長射程ミサイルの開発・量産が、より大規模かつ迅速に進められるでしょう。
- 統合防空ミサイル防衛(IAMD)能力の強化: 弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速兵器など、多様化する航空宇宙からの脅威に対応するため、イージス艦やPAC-3などのミサイル防衛システムがさらに拡充されます。これに加え、早期警戒・監視能力の強化、サイバー空間や宇宙空間との連携による多層的な防衛網の構築が進むでしょう。
- 無人アセット防衛能力の導入・強化: 無人航空機(UAV)、無人水上艇(USV)、無人潜水機(UUV)などの無人アセットの開発・取得が大幅に加速します。2025年度の予算要求で無人機への支出が約3倍の3130億円に達していることからも、この分野への注力が伺えます。無人アセットは、偵察・監視、攻撃、補給など多岐にわたる任務を担い、自衛官の危険を減らしつつ、広範囲での作戦遂行能力を向上させます。これは、将来の戦い方を見据えた戦略的投資であり、日本の防衛力を質的に変革する可能性を秘めています。
- 領域横断作戦能力の構築: 陸・海・空の伝統的な領域に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を統合した作戦遂行能力が強化されます。特にサイバー防衛能力は、国家の重要インフラ保護や情報戦への対応において極めて重要であり、専門人材の育成と技術開発に大規模な投資が行われるでしょう。
- 持続性・強靱性の強化: 大規模な防衛費は、継戦能力の強化、すなわち弾薬や燃料の確保、装備品の整備・維持、施設の強靱化にも充てられます。これにより、有事の際に自衛隊が長期にわたって作戦を継続できる能力が向上し、抑止力の実効性が高まります。南西諸島における燃料・弾薬備蓄の強化や、港湾・空港の整備も加速するでしょう。
- 南西諸島防衛の強化: 中国の海洋進出が活発化する南西地域における防衛体制は、陸上自衛隊のミサイル部隊配備、航空自衛隊の展開能力強化、海上自衛隊の警戒監視活動の強化など、多角的に進められます。GDP比3.5%の予算は、この地域への大規模なインフラ投資や部隊展開を可能にし、日本の領土・領海・領空の防衛をより確固たるものにするでしょう。
このような防衛力強化は、日米同盟の深化にも繋がります。米国は長らく日本に対し、防衛費の増額と「応分の負担」を求めてきました。GDP比3.5%への引き上げは、日本の同盟国としてのコミットメントを明確に示し、日米間の相互運用性(インターオペラビリティ)の向上や共同訓練の強化を促進するでしょう。これにより、インド太平洋地域における米国の戦略的負担を軽減し、日米同盟全体の抑止力をさらに高める効果が期待されます。
一方で、これほどの防衛費増額は、日本の軍事戦略に新たな課題も提起します。例えば、反撃能力の保有は、日本の「専守防衛」の原則との整合性を巡る議論を再燃させる可能性があります。また、急速な軍備増強は、周辺国、特に中国や北朝鮮からの反発を招き、地域の軍拡競争を加速させるリスクも孕んでいます。日本の防衛戦略は、これらのリスクを慎重に管理しつつ、透明性をもって国際社会に説明していく責任を負うことになります。
さらに、防衛産業の強化も重要な戦略的側面です。「防衛生産基盤強化法」の制定など、国内の防衛生産基盤の強化に向けた取り組みが進められていますが、GDP比3.5%の予算は、この分野に大規模な投資を可能にします。これにより、国内の防衛産業は技術革新を加速させ、雇用を創出し、経済成長に貢献する可能性があります。また、国産兵器の開発・生産能力の向上は、サプライチェーンの強靱化にも繋がり、有事における安定的な装備品供給を確保する上で極めて重要です。
結論として、GDP比3.5%への防衛費引き上げは、日本の軍事・戦略的アプローチを根本から変革し、より能動的かつ実効的な防衛力を構築する道を開くものです。しかし、その実現には、財政的な課題、国際関係への影響、そして国民の理解と支持という、多岐にわたる戦略的課題を克服する必要があります。
日本の安全保障への影響
日本の防衛費がGDP比3.5%へと引き上げられることは、日本の安全保障体制全体に広範かつ深遠な影響を及ぼすでしょう。これは単に軍事力の増強に留まらず、自衛隊の組織文化、国内経済、国際社会における日本の立ち位置、そして国民生活に至るまで、多岐にわたる側面で変革を促すことになります。
最も直接的な影響は、自衛隊の防衛力と能力の抜本的な強化です。前述の軍事・戦略的分析で詳述したように、反撃能力の保有、統合防空ミサイル防衛、無人アセットの導入、領域横断作戦能力の構築、そして持続性・強靱性の強化が飛躍的に進展します。これにより、自衛隊はより多様な脅威に対応できる、実効性の高い抑止力を有することになります。特に、南西諸島防衛の強化は、日本の領土・領海・領空の防衛をより確固たるものとし、中国の海洋進出に対する日本のプレゼンスを強化する上で不可欠です。
しかし、防衛力強化の根幹を支えるのは「人」です。深刻な人手不足に直面している自衛隊にとって、防衛費増額は自衛官の処遇改善と人員確保に極めて大きな影響を与えます。2025年に成立した改正防衛省設置法では、航空管制官手当の新設や各種手当の増額が実現し、2026年度予算では処遇改善に前年度比42%増の5,814億円が計上されています。GDP比3.5%への引き上げが実現すれば、給与面のさらなる改善に加え、隊舎の個室化や老朽施設の建て替え・改修といった生活環境の整備にも潤沢な予算が充てられるでしょう。これにより、自衛官の士気向上、定着率の改善、そして優秀な人材の確保に繋がり、自衛隊の組織としての強靱性が高まることが期待されます。
次に、国内の防衛産業への影響も甚大です。「防衛生産基盤強化法」の制定など、国内の防衛生産基盤の強化に向けた取り組みが進められていますが、GDP比3.5%の防衛費は、この分野に大規模な投資を可能にします。これにより、国内の防衛関連企業は研究開発投資を拡大し、先端技術の開発を加速させることができます。これは、単に装備品の国産化率を高めるだけでなく、民生技術への転用や新たな産業の創出にも繋がり、日本の経済成長に貢献する可能性を秘めています。また、サプライチェーンの強靱化は、有事における装備品の安定供給を確保する上で極めて重要であり、日本の安全保障上の自律性を高める効果も期待されます。防衛費をGDP比3.5%まで増額した場合、マクロ経済への影響として、追加で111.2万人分の雇用が発生すると試算されていることも、経済的側面からの期待を示しています。
国際社会における日本の立ち位置も大きく変化するでしょう。GDP比3.5%という防衛費は、日本の国際的な「応分の負担」を明確に示し、日米同盟の信頼性を一層高めます。米国との相互運用性の向上や共同訓練の強化は、インド太平洋地域における抑止力を強化し、地域の安定に貢献します。また、NATO諸国との連携も深まり、国際的な安全保障協力における日本の役割が拡大する可能性があります。しかし、一方で、急速な軍備増強は、中国や北朝鮮といった周辺国からの反発を招き、地域の軍拡競争を加速させるリスクも孕んでいます。日本は、防衛力強化の目的と透明性を国際社会に丁寧に説明し、不必要な緊張を高めないよう外交努力を強化する必要があります。
最後に、国民生活への影響も避けて通れません。GDP比3.5%という防衛費は、現在の約11兆円の安全保障関連経費から約24.2兆円へと、約13兆円もの上積みが必要となります。この巨額な財源を確保するためには、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入に加え、法人税、所得税、たばこ税などの増税が不可避となるでしょう。少子高齢化による社会保障費の増加や巨額の政府債務の利払い費など、財政圧迫要因が山積する中で、国民にはさらなる負担が求められることになります。防衛費増額の必要性に対する国民の理解と支持を得るためには、政府は透明性をもって情報を提供し、増税の使途や効果を具体的に示す必要があります。国民の生活に直接影響を及ぼす財政問題は、今後の議論の最大の焦点となるでしょう。
このように、防衛費GDP比3.5%への引き上げは、日本の安全保障に多岐にわたる影響を及ぼし、その未来を大きく左右する歴史的な選択となることは間違いありません。
今後の展望
日本の防衛費GDP比3.5%への引き上げ検討は、単なる予算規模の議論に留まらず、日本の安全保障政策、経済、社会、そして国際関係のあり方を根本から問い直す、長期的な課題を提示しています。今後の展望を考える上で、いくつかの重要な論点が存在します。
まず、最も喫緊かつ重要な課題は、財源の確保です。現在の安全保障関連経費約11兆円から約24.2兆円へと、約13兆円もの上積みが必要となるGDP比3.5%の目標は、日本の財政にとって極めて大きな負担となります。政府は歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、そして法人税、所得税、たばこ税の増税を財源としていますが、これだけでは到底賄いきれない規模です。さらなる増税は国民生活に直接的な影響を及ぼし、国民の理解と支持なしには実現は困難でしょう。少子高齢化による社会保障費の増加、巨額の政府債務の利払い費といった既存の財政圧迫要因とどうバランスを取るのか、持続可能な財源確保策をいかに構築するかが、今後の最大の焦点となります。
次に、国民的議論の深化と合意形成が不可欠です。防衛費の大幅な増額は、戦後の平和主義を基調としてきた日本の社会に大きな変化をもたらします。反撃能力の保有や防衛産業の強化といった政策は、日本の安全保障のあり方そのものに関わるため、国民一人ひとりがその意義と影響を深く理解し、議論に参加することが求められます。政府は、透明性をもって情報を提供し、増額の必要性、使途、そして国民生活への影響について丁寧に説明する責任があります。単なる「脅威論」に終始するのではなく、日本の安全保障を巡る多角的な視点を提供し、幅広い国民的合意を形成していくプロセスが不可欠となるでしょう。
また、国際社会における日本の役割と外交戦略も再定義される必要があります。GDP比3.5%の防衛費は、日本を世界有数の軍事支出国へと押し上げることになります。これは、日米同盟の強化やNATO諸国との連携深化に繋がる一方で、中国や北朝鮮といった周辺国からの反発を招き、地域の軍拡競争を加速させるリスクも孕んでいます。日本は、防衛力強化の目的が「力による現状変更」を抑止し、地域の平和と安定に貢献することにあると、国際社会に明確かつ説得力をもって説明していく必要があります。防衛力強化と並行して、多国間協力の推進、軍備管理・軍縮への貢献、そして対話を通じた緊張緩和努力を怠らない、バランスの取れた外交戦略が求められます。
さらに、防衛産業の育成と技術革新も長期的な視点から重要です。防衛費増額を単なる「コスト」ではなく、「投資」として捉え、国内の防衛産業基盤を強化することで、雇用創出や技術革新に繋げる視点が不可欠です。特に、無人アセットやサイバー防衛といった先端技術分野への投資は、日本の科学技術力全体の底上げにも貢献する可能性があります。しかし、防衛産業の育成には、安定的な需要の確保、国際競争力の強化、そして輸出規制の見直しなど、多岐にわたる政策的課題が存在します。
最後に、自衛隊の組織改革と人材育成も継続的な課題です。防衛費増額によって装備品が拡充されても、それを運用する「人」がいなければ意味がありません。自衛官の処遇改善や生活環境の整備は喫緊の課題ですが、それに加えて、新たな戦略環境に対応できる高度な専門知識と技能を持つ人材の育成、そして多様な人材が活躍できる組織文化の醸成が不可欠です。特に、サイバーや宇宙といった新たな領域に対応できる専門家の育成は、長期的な視点での投資が求められます。
これらの課題を乗り越え、GDP比3.5%への防衛費引き上げが日本の安全保障に真に貢献するためには、政府、国民、そして国際社会が一体となって、建設的な議論と具体的な行動を継続していく必要があります。日本の防衛政策は、今、歴史的な岐路に立っており、その選択が未来の日本の姿を決定づけることになるでしょう。
まとめ
- 日本の防衛費は、2026年9月16日現在、厳しさを増す安全保障環境と国際的な要請を受け、歴史的な転換期を迎えている。
- 2022年12月の「国家安全保障戦略」により、2027年度までに防衛費をGDP比2%に引き上げる目標が設定され、高市政権は2025年度への前倒しを検討中。
- 2026年度の防衛関係費は9兆353億円、安全保障関連経費総額は約11兆円(GDP比約1.6%)に達し、2%目標達成に向けた動きは加速している。
- 高市政権は、さらに防衛費をGDP比3.5%に引き上げる新たな中期目標の設定を検討しているとの報道があり、NATOや韓国の動きと足並みを揃える狙いがある。
- GDP比3.5%を実現する場合、現在の約11兆円から約13兆円上積みされ、総額約24.2兆円が必要となり、財源確保が最大の課題となる。
- 防衛力強化は、反撃能力、統合防空ミサイル防衛、無人アセット、領域横断作戦能力、持続性・強靱性、南西諸島防衛の各分野で進められる。
- 自衛隊の人員確保と処遇改善、国内防衛産業の強化、日米同盟の深化にも大きく貢献する一方で、財政負担、国民的合意形成、周辺国との関係悪化のリスクも存在する。
- 今後の展望として、持続可能な財源確保、国民的議論の深化、国際社会における日本の役割再定義、防衛産業育成、自衛隊の組織改革と人材育成が重要となる。
