日本経済安保の深化:防衛産業と民間資金、法改正の最前線

日本は今、歴史的な転換点に立っています。厳しさを増す国際安全保障環境、特に地政学的な緊張の高まりと経済的威圧の脅威は、国家の安全保障を従来の軍事・外交の枠組みを超え、経済活動全体で捉え直すことを強く求めています。この認識に基づき、日本政府は経済安全保障政策の深化を急速に進め、その中核として防衛産業の抜本的な強化と、これに伴う民間資金の積極的な流入、そして関連法制度の大胆な改正を推進しています。 かつて「平和国家」の象徴として抑制されてきた防衛産業への投資や装備品の海外移転は、今や「強い経済」と「総合的な国力」を築くための不可欠な要素として位置づけられています。2026年9月18日現在、この新たな潮流は、防衛費の大幅な増額、金融機関の融資姿勢の変化、そして経済安全保障推進法や防衛装備移転三原則の改正といった具体的な動きとして顕在化しています。 本稿では、防衛・安全保障の専門ライターとして、これらの最新動向を詳細に分析し、日本の経済安全保障政策が辿ってきた背景と経緯、現在の最前線、そしてそれが日本の安全保障環境と国際社会における役割にどのような影響をもたらすのかを深く掘り下げていきます。
目次

背景・経緯

日本の経済安全保障政策が現代的な議論として本格化したのは、2020年頃からです。この動きの背景には、国際社会におけるパワーバランスの劇的な変化、経済的依存関係が政治的・軍事的な手段として利用される現実、そして新型コロナウイルス感染症のパンデミックが露呈させたグローバルサプライチェーンの脆弱性といった複合的な要因があります。特に、2010年に発生した中国漁船衝突事件に端を発する中国によるレアアース輸出規制は、経済的威圧が国家の安全保障に直接的な脅威となり得ることを日本に強く認識させる決定的な契機となりました。 こうした国際情勢の激変を受け、日本国内では経済安全保障の重要性に対する認識が急速に高まりました。2020年12月には自由民主党が「『経済安全保障戦略策定』に向けて」と題する提言を発表し、経済安全保障を「わが国の独立と生存及び繁栄を経済面から確保すること」と明確に定義しました。この提言は、その後の政府の政策立案に大きな影響を与えました。2021年10月には岸田文雄首相が経済安全保障担当大臣を新設し、同年11月には第1回経済安全保障推進会議が開催されるなど、政府一体となった取り組みが加速しました。この会議では、経済構造の自律性向上、技術の優位性・不可欠性の確保、そしてルールに基づく国際秩序の維持・強化という三つの目標が掲げられ、日本の経済安全保障政策の方向性が示されました。 そして、2022年5月には「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(通称:経済安全保障推進法)が成立し、段階的に施行されました。この法律は、重要物資の安定供給確保、基幹インフラ役務の安定提供確保、先端的な重要技術の開発支援、特許出願の非公開という四つの柱を基盤として、日本の経済安全保障を法的に担保する画期的なものでした。同年8月には内閣府に経済安全保障推進室が設置され、政策の統一的かつ整合的な展開が図られることになりました。 日本の経済安全保障政策は、「戦略的自律性」(特定の国への過度な依存を避け、自国の判断で行動できる能力)と「戦略的不可欠性」(高い技術力や供給能力によって他国にとって不可欠な存在となること)の確保を二大目標として掲げています。これは、単に自国の脆弱性を克服するだけでなく、国際社会における日本のプレゼンスと影響力を高めることを目指すものです。 一方、日本の防衛産業は長らく、市場の限定性、低い収益性、そして長い調達リードタイムといった構造的な課題に直面してきました。戦後の平和主義と厳格な武器輸出規制の下で、国内市場に特化せざるを得ず、規模の経済が働きにくい環境にありました。これにより、技術革新への投資が滞り、サプライチェーンの脆弱化も懸念されていました。しかし、国際的な地政学リスクの急速な高まりと、日本の防衛費の大幅増額という政策転換は、この防衛産業を取り巻く環境を一変させ、「新しい成長テーマ」として民間資金の流入を加速させる契機となっています。政府は、防衛産業を「防衛力そのもの」と位置づけ、その生産・技術基盤の抜本的強化を国家戦略として推進しています。

最新動向

2026年9月18日現在、日本の経済安全保障政策は、防衛産業への民間資金流入の促進と関連法改正において、かつてないほどの深化と加速を見せています。 まず、日本の経済安全保障政策全体が、国家の安全保障と経済活動を不可分と捉え、重要物資や基幹インフラの安定供給、先端技術の開発支援、重要な海外事業の促進を柱としています。2026年の「骨太方針」や「成長戦略」において、経済安全保障は日本経済の重要な役割を担うことが明示され、「強い経済」の実現に向けた戦略的投資が推進されています。政府は「危機管理投資」と「成長投資」を大胆に推進し、17の戦略分野、特に62の「主要な製品・技術等」に対して「官民投資ロードマップ」に基づき優先的に支援しています。また、外交、防衛、経済、技術、情報といった総合的な国力を強化し、最大限に活用することを目指しており、政府全体の幅広い政策要請に応えるため、機動的な調査研究を行う総合的な経済安全保障シンクタンク機能の構築が2026年度中に目指されています。経済活動における国家および国民の安全を害する行為を未然に防止するため、官民連携による情報共有と対策協議を行う「官民協議会」も組織され、その活動を活発化させています。 次に、防衛産業への民間資金流入の最新動向です。日本の防衛費は急速に増加しており、2026年度予算では初めて9兆円の大台を突破し、前年度比9.4%増となりました。これは4年連続の過去最大更新であり、2027年度までにGDP比2%の支出目標に向けた動きは、防衛産業にとって強力な追い風となっています。防衛省は、企業が中長期的な事業計画を立てやすい環境を整備し、設備投資や新規参入を促すため、2027年度にも弾薬や無人機などの装備品の調達数を企業に事前通知する制度を導入する方針です。これにより、これまで不透明だった調達計画の予見可能性が向上し、民間投資が後押しされると期待されています。 長年の課題であった防衛産業の低収益性についても、政府は積極的な改善策を講じています。利益率の上限引き上げ(例えば15%)や、日本政策投資銀行(DBJ)による投資制限の撤廃などを検討し、収益性改善を図っています。さらに、防衛省は国内の防衛生産基盤を安定的に維持するため、事業の統合や再編に取り組む企業に対し、政府が直接出資を行う新たな支援制度を2027年度予算で創設する方針を固めました。これは、中小サプライチェーンの崩壊や技術高度化の壁といった構造的課題に対応し、「継戦能力」を確保することを目的としています。 民間市場の競争力強化と防衛装備品の質・量向上を両立させるため、デュアルユース(軍民両用)技術分野への積極的な投資が進められています。サプライチェーン全体の強靭化も重要な課題であり、2025年3月には防衛装備庁と経済産業省が共同で「防衛産業における受託適正取引等の推進のためのガイドライン」を策定し、サプライチェーン全体での適正な取引慣行と企業価値の最大化を促しています。また、2026年度末(2027年3月頃)からは、サプライチェーン全体のサイバーセキュリティレベルを底上げするための「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」が本格運用を開始する予定です。経済安全保障上重要な海外事業への支援としては、国際協力銀行(JBIC)が劣後出資等を通じて民間資金の動員を図る新たな制度が創設されました。JBIC法の目的規定に経済安全保障の推進が追加され、償還確実性・収支相償の原則の適用を受けない出資等が可能となります。 これらの施策により、三菱重工業、川崎重工業、IHIといった重工大手や、三菱電機、NECなどの電機大手は、過去3年間で防衛関連の受注が急増しています。日本の航空宇宙・防衛市場は、2025年の57.5億米ドルから2034年には84.5億米ドルに達すると予測されており、2026年から2034年の期間で年平均成長率(CAGR)4.37%で拡大が見込まれています。国内最大手の三菱UFJ銀行は、防衛産業向けの融資を本格的に拡大する方針を示し、大手防衛企業への運転資金融資に加え、人工知能(AI)やドローン、衛星などの先端技術を持つ中小企業やスタートアップも融資対象に含めるための内部基準を整備しています。政府系の日本政策投資銀行(政投銀)も、国内の武器製造関連企業への投融資に関する運用ルールを「慎重に対応する」から「検討可能」に変更しました。民間金融機関は、企業イメージの低下や中国など海外事業への影響を懸念する声もありますが、「安全保障」が「社会貢献」という観点からESG投資の対象として再評価され始めています。防衛省と経済産業省は連携し、防衛スタートアップ(防衛テック)の支援を推進しており、軍民両用技術の活用やスタートアップ・エコシステムの形成を目指しています。世界の防衛テック関連分野への投資は2025年に約500億米ドル規模に達したとされています。 法改正の最新動向も目覚ましいものがあります。2022年5月に成立した経済安全保障推進法は、2026年6月に改正法が成立し、同年6月17日に公布されました。改正法は2027年中に段階的に施行される予定です。主な改正点は、サプライチェーンの強靭化の拡充(重要物資の供給に不可欠な役務も支援対象に)、基幹インフラの安定提供の確保の拡充(医療分野が対象業種に追加)、先端的な重要技術の開発支援の強化(「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の強化)、重要な海外事業の促進(JBICによる国際的な輸送網の強靭化に資する施設整備事業への支援)、官民連携の強化(官民協議会の組織化や調査研究の推進)です。 防衛装備移転三原則および運用指針も、2026年4月21日に国家安全保障会議および閣議において一部改正されました。この改正の最大のポイントは、これまで救難、輸送、警戒、監視、掃海の5類型に限定されていた国産完成品の海外移転について、安全保障上のパートナー国に対しては原則として全ての完成品の移転を認め得ることとした点です。これにより、殺傷能力のある武器の輸出も原則容認されることになりました。ただし、国連憲章に適合した使用を義務付ける国際約束の締結国に限定され、個別の案件は一層厳格に審査されます。また、移転後の適正な管理確保も求められ、国家安全保障会議で承認された武器の完成品移転は速やかに国会に通知されます。これまで「厳に抑制する」とされてきた防衛装備に係る対外直接投資(M&A・出資等)の取扱いも見直され、防衛装備移転三原則の趣旨を踏まえて外為法に基づく審査が行われることが明確化されました。 2025年5月に施行された「重要経済安保情報保護活用法」(セキュリティクリアランス制度)については、重要経済安保情報の指定や適性評価の実施、適合事業者の認定などの制度運用が円滑に進められています。これは、防衛産業を含む経済安全保障に関わる企業が国際水準の強固な情報保全体制を構築する上で不可欠な要素です。 さらに、2023年6月7日に成立し、同年6月14日に公布された「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」(防衛生産基盤強化法)も重要な役割を担っています。この法律は、防衛装備品の海外輸出に取り組む企業を後押しするための基金を新設し、輸出先の国に合わせた仕様変更コストなどを国が支援します。また、自衛隊の任務に不可欠な装備品を製造する企業の事業継続が困難になった場合、国が生産ラインを一時的に国有化し、別の企業に委託できる仕組みも新たに設けられました。防衛装備品の情報漏洩に対する罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)も導入されています。 政府は、防衛装備品の輸出促進などを通じて防衛産業を支援する新たな組織の設立も検討しています。独立行政法人とする案が有力で、官民連携と省庁横断での支援体制を確立し、輸出後の整備や訓練などの業務を支える「日本版FMS(対外有償軍事援助)」の導入も視野に入れています。この組織は、新興企業への資金提供や製造ラインの国有化も担い、有事にも対処できる産業基盤の増強を急ぐ方針です。

軍事・戦略的分析

日本の経済安全保障政策の深化と防衛産業への民間資金流入、そして一連の法改正は、日本の軍事・戦略的態勢に多岐にわたる影響を与えています。これは単なる装備品の増強に留まらず、国家としての総合的な抑止力と対処能力の向上、さらには国際社会における日本の戦略的地位の再構築を目指すものです。 まず、防衛費の大幅な増額と、防衛省による装備品調達計画の事前通知制度の導入は、防衛産業の「継戦能力」確保に直結する戦略的意義を持ちます。これまで、防衛装備品の調達は単年度予算に縛られ、企業の生産ライン維持や設備投資の予見可能性が低く、有事の際の増産体制に不安がありました。しかし、中長期的な調達計画が明確化されることで、企業は安定的な投資を行い、生産能力を維持・拡大することが可能となります。これは、紛争が長期化した場合に不可欠となる弾薬や補給品の安定供給、あるいは損耗した装備品の補充能力を飛躍的に向上させるものであり、日本の防衛戦略における重要な脆弱性を克服するものです。政府による防衛産業への直接出資制度も、特に中小サプライヤーの技術基盤維持や事業継続を支援し、サプライチェーン全体の強靭化に貢献します。 デュアルユース技術への積極的な投資は、日本の軍事技術革新の起爆剤となる可能性を秘めています。民生分野で培われた先端技術、例えばAI、ロボティクス、サイバー技術、宇宙技術などが、防衛装備品に応用されることで、自衛隊の能力を質的に向上させます。同時に、防衛分野で開発された技術が民生転用されることで、日本の産業全体の競争力強化にも繋がります。これは「戦略的不可欠性」の確保という日本の経済安全保障の目標と合致し、技術的優位性を維持するための重要な戦略です。サプライチェーン全体のサイバーセキュリティレベルを底上げする「SCS評価制度」の本格運用は、機密情報の漏洩リスクを低減し、防衛産業の信頼性と国際競争力を高める上で不可欠な措置と言えます。 防衛装備移転三原則の改正は、日本の安全保障政策における最も劇的な変化の一つです。これまで限定的だった国産完成品の海外移転が、安全保障上のパートナー国に対して原則として全ての完成品に拡大されたことは、日本の防衛産業に新たな市場を開拓するだけでなく、同盟国・同志国の抑止力・対処力を強化する上で極めて重要な意味を持ちます。例えば、インド太平洋地域における共通の脅威に直面する国々に対し、日本の高性能な装備品を提供することで、地域の安定に貢献し、日本の安全保障環境を間接的に改善することができます。これは、日本の「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」を同時に高める戦略であり、日本の国際的なプレゼンスと影響力を拡大するものです。殺傷能力のある武器の輸出容認は、国際社会における日本の役割をより能動的なものへと変える可能性を秘めていますが、同時に厳格な審査と国際約束の遵守が求められるため、その運用には細心の注意が必要です。対外直接投資の規制緩和も、日本の防衛産業が国際的なサプライチェーンや技術開発ネットワークに深く組み込まれることを可能にし、技術協力を通じた相互運用性の向上や、共同開発によるコスト削減にも繋がるでしょう。 重要経済安保情報保護活用法(セキュリティクリアランス制度)の円滑な運用は、国際的な防衛協力、特に機密性の高い情報や技術を共有する上で不可欠です。この制度が確立されることで、日本企業はより高度な国際共同開発プロジェクトに参加できるようになり、最先端技術へのアクセスが容易になります。これは、日本の防衛技術水準を国際水準に引き上げ、同盟国との連携を深める上で極めて重要な基盤となります。 国際協力銀行(JBIC)による経済安全保障上重要な海外事業への支援や、新たな政府組織の設立検討は、日本の経済安全保障政策が単なる国内問題に留まらず、グローバルな視点から展開されていることを示しています。海外における国際的な輸送網の強靭化に資する施設の整備支援は、日本のサプライチェーンの安定化だけでなく、自由で開かれたインド太平洋構想の実現にも寄与します。また、「日本版FMS」のような輸出後の整備や訓練を支援する体制は、日本の防衛装備品が国際市場で信頼を獲得し、長期的なパートナーシップを構築する上で不可欠な要素です。これらの取り組みは、日本の防衛産業が国際的な競争力を持ち、グローバルな安全保障に貢献できる存在へと変貌を遂げるための戦略的な布石と言えるでしょう。

日本の安全保障への影響

日本の経済安全保障政策の深化と防衛産業の強化は、自衛隊の能力向上、国内の防衛生産基盤の安定、そして国際社会における日本の役割拡大という三つの側面から、日本の安全保障に極めて広範かつ深遠な影響を及ぼしています。 まず、自衛隊への影響は直接的かつ顕著です。防衛費の大幅な増額と、防衛産業への民間資金流入の促進は、自衛隊がより高性能で多様な装備品を安定的に調達できる環境を整備します。これまで予算の制約や国内産業基盤の脆弱性から、必要な装備品の調達が遅れたり、維持管理に支障をきたしたりするケースが見られました。しかし、政府による収益性改善策や直接出資制度、そして調達計画の予見可能性向上は、企業が研究開発や設備投資に積極的に取り組むインセンティブを与え、結果として自衛隊は最新鋭の技術を取り入れた装備品をタイムリーに導入できるようになります。特に、デュアルユース技術の活用は、AI、サイバー、宇宙といった新領域における自衛隊の能力を飛躍的に向上させ、現代戦における優位性を確保する上で不可欠です。これにより、自衛隊はより高度な抑止力と対処能力を持つことが可能となり、日本の防衛力全体が強化されます。 次に、国内の防衛生産基盤の安定と強化は、日本の安全保障にとって極めて重要な意味を持ちます。防衛産業は「防衛力そのもの」と位置づけられるように、有事の際に装備品の生産、修理、補給を担う生命線です。長らく低収益性に苦しんできた国内防衛産業が、民間資金の流入と政府の強力な支援によって活性化することは、サプライチェーン全体の強靭化に繋がり、有事における「継戦能力」を確保する上で不可欠です。中小サプライヤーの技術継承や事業継続が支援されることで、特定の部品や技術が海外に依存しすぎるリスクが低減され、自律的な防衛生産体制が確立されます。防衛生産基盤強化法に基づく生産ラインの国有化制度は、万が一の事態においても、国家が必要な装備品の生産を継続できる最終的なセーフティネットとして機能し、日本の安全保障を根底から支えることになります。 さらに、国際社会における日本の役割拡大も大きな影響です。防衛装備移転三原則の改正により、日本の国産完成品が安全保障上のパートナー国へ移転可能となったことは、同盟国・同志国との連携を深め、地域の安定に貢献する新たな外交ツールとなります。例えば、インド太平洋地域における海洋安全保障の強化や、共通の脅威に対する抑止力向上に、日本の装備品や技術が貢献できるようになります。これは、日本の安全保障を自国のみで完結させるのではなく、国際的な協力体制の中で構築していくという、より広範な安全保障戦略の一環です。また、国際協力銀行(JBIC)による海外事業支援や、新たな政府組織による「日本版FMS」の導入は、日本の防衛産業が国際市場で信頼される存在となり、国際的な防衛協力の主要な担い手となることを可能にします。これにより、日本は単なる経済大国としてだけでなく、国際的な安全保障の維持・強化に積極的に貢献する国家としてのプレゼンスを高めることができます。 重要経済安保情報保護活用法(セキュリティクリアランス制度)の運用は、国際共同開発や情報共有を円滑に進める上で不可欠であり、同盟国との信頼関係を一層強固なものにします。これは、日本の防衛技術が国際的な標準に適合し、最先端の技術開発に貢献できる能力を持つことを意味します。 これらの政策と法改正は、日本の安全保障を「経済」と「軍事」の両面から強化し、国家としての総合的な国力を高めるものです。厳しい国際情勢の中で、日本が自国の平和と繁栄を確保し、国際社会の安定に貢献するための基盤を築いていると言えるでしょう。

今後の展望

日本の経済安全保障政策の深化と防衛産業の変革は、まだその途上にあり、今後数年間でさらに具体的な成果と新たな課題が浮上するでしょう。このダイナミックな動きは、日本の安全保障環境、経済構造、そして国際関係に長期的な影響を与えることが予想されます。 まず、防衛産業への民間資金流入は今後も加速する見込みです。政府による防衛費の安定的な増加と、調達計画の予見可能性向上は、企業にとって投資リスクを低減し、新たなビジネスチャンスを創出します。特に、デュアルユース技術分野への投資は、民生技術の軍事転用だけでなく、軍事技術の民生転用も促進し、イノベーションの好循環を生み出すでしょう。AI、サイバーセキュリティ、宇宙、量子技術といった先端分野のスタートアップ企業が防衛テック市場に参入し、既存の大手企業との連携やM&Aを通じて、日本の防衛産業全体の技術力を底上げすることが期待されます。金融機関も、ESG投資の新たな側面として「安全保障」を評価する動きをさらに強め、防衛産業への融資や投資を拡大していくでしょう。 法制度の面では、2027年中に段階的に施行される改正経済安全保障推進法が、日本のサプライチェーン強靭化、基幹インフラ防護、先端技術開発支援、海外事業促進をさらに具体化させます。特に、医療分野の基幹インフラへの追加は、パンデミックのような非伝統的安全保障脅威への対応能力を高める上で重要です。防衛装備移転三原則の改正は、日本の防衛装備品が国際市場でより大きな役割を果たす道を開き、特にインド太平洋地域の同盟国・同志国との安全保障協力が深化するでしょう。日本の装備品が、地域の安定と抑止力向上に貢献する事例が増えるにつれて、「日本版FMS」のような輸出支援体制の重要性は一層高まります。 新たな政府組織の設立は、防衛産業支援と輸出促進の司令塔として機能し、官民連携をさらに強化するでしょう。この組織は、新興企業への資金提供、技術開発支援、そして輸出後のサポートまでを一元的に担うことで、日本の防衛産業が国際競争力を獲得し、グローバルなサプライチェーンに深く組み込まれるための強力な推進力となります。 しかし、これらの前向きな展望と同時に、いくつかの課題も浮上する可能性があります。一つは、技術人材の確保です。先端技術分野での開発競争が激化する中で、防衛産業が優秀な人材を惹きつけ、育成できるかが鍵となります。また、国際競争力の維持も重要です。海外の防衛産業は大規模な市場と研究開発投資を背景に成長しており、日本が独自の技術優位性を確立し続けるためには、継続的なイノベーションと国際協力が不可欠です。さらに、防衛装備品の輸出拡大に伴い、国際的な規範や倫理的側面への配慮も一層求められるでしょう。殺傷能力のある武器の移転は、国際社会からの厳しい視線に晒される可能性があり、透明性と厳格な管理体制の維持が不可欠です。 総じて、日本は経済安全保障を国家戦略の中核に据え、防衛産業を新たな成長エンジンとして位置づけることで、自国の安全保障を多角的に強化し、国際社会における責任を果たすべく、歴史的な変革を進めています。この動きは、日本の未来を形作る上で極めて重要な意味を持つことになるでしょう。

まとめ

  • 日本の経済安全保障政策は、国際情勢の厳しさを受け、国家の安全保障を経済活動全体で捉える方向に急速に深化している。
  • 2026年度の防衛費は9兆円を突破し、GDP比2%目標に向けた動きが防衛産業に追い風となっている。
  • 政府は、防衛産業の低収益性改善のため、利益率上限引き上げや日本政策投資銀行(DBJ)の投資制限撤廃を検討し、2027年度には政府による直接出資制度を創設する方針。
  • 防衛省は、2027年度にも弾薬や無人機などの調達数を企業に事前通知する制度を導入し、民間投資の予見可能性を向上させる。
  • デュアルユース技術への投資が活発化し、サプライチェーン全体の強靭化とサイバーセキュリティ強化(SCS評価制度)が進められている。
  • 国際協力銀行(JBIC)は、経済安全保障上重要な海外事業への支援を強化し、民間資金の動員を図る。
  • 改正経済安全保障推進法(2026年6月成立、2027年段階的施行)により、サプライチェーン強靭化の対象に役務が追加され、基幹インフラ防護に医療分野が加わるなど、政策が拡充された。
  • 防衛装備移転三原則および運用指針が2026年4月21日に改正され、安全保障上のパートナー国への国産完成品(殺傷能力のある武器を含む)の移転が原則容認された。
  • 重要経済安保情報保護活用法(セキュリティクリアランス制度)の運用が円滑に進み、防衛産業の情報保全体制が強化されている。
  • 防衛生産基盤強化法(2023年6月成立)により、海外輸出支援基金の創設や、生産ラインの国有化制度、情報漏洩罰則が導入された。
  • 政府は、防衛装備品の輸出促進などを担う新たな政府組織(日本版FMS機能を含む)の設立を検討している。
  • これらの政策と法改正は、自衛隊の能力向上、国内防衛生産基盤の安定、国際社会における日本の役割拡大に貢献し、日本の総合的な安全保障を強化する。
  • 今後の展望として、民間資金流入のさらなる加速、デュアルユース技術の進展、国際協力の深化が期待される一方、技術人材確保や国際競争力維持、倫理的側面への配慮が課題となる。
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