📌 結論・ポイント(3行要約)
- 日本の防衛政策の土台となる3つの文書:2022年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の総称。相手のミサイル攻撃に反撃する「反撃能力」の保有を初めて明記した。
- 5年間で43兆円程度:2023〜2027年度の防衛力整備の規模を43兆円程度とし、2027年度には防衛関係費とそれを補完する経費を合わせて国内総生産(GDP)比2%に達する予算水準を目指す。
- 2026年末に改定へ:政府は2025年度の補正予算などでGDP比2%を前倒しで達成する方針を示し、3文書そのものを2026年末までに改定する予定。新たな目標の設定が焦点になっている。
1. 防衛三文書とは
「防衛三文書」(安保3文書)は、日本の安全保障・防衛政策の方向を定める3つの文書の総称です。2022年12月16日、岸田内閣が国家安全保障会議と閣議で決定しました。
【表1】3つの文書の役割
| 文書 | 役割 | 以前の名称・位置づけ |
|---|---|---|
| 国家安全保障戦略 | 外交・防衛・経済安全保障などを含む、安全保障の最上位の戦略。おおむね10年程度を念頭 | 2013年に初めて策定。2022年に初の改定 |
| 国家防衛戦略 | 防衛の目標と、それを達成するための方法・手段を示す | 「防衛計画の大綱」から名称を変更 |
| 防衛力整備計画 | 5年間の経費の総額と、主な装備品の数量を示す | 「中期防衛力整備計画(中期防)」から名称を変更 |
防衛計画の大綱は1976年に初めて策定され、その後おおむね10年ごとに見直されてきました。2022年の改定は、名称の変更に加えて、内容面でも戦後の防衛政策の大きな転換とされています。
2. 2022年改定の主なポイント
① 反撃能力の保有
相手からミサイル攻撃を受けた場合に、相手の領域内のミサイル発射拠点などに有効な反撃を加える能力を「反撃能力」と位置づけ、保有することを明記しました。政府は、武力の行使の3要件を満たす場合に限って行使するもので、先制攻撃は許されないとし、専守防衛の考え方は変わらないと説明しています。中核となるのは、12式地対艦誘導弾能力向上型やトマホークなどの長射程ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)です。
② 防衛費の大幅な増額
2023〜2027年度の5年間の防衛力整備の水準を43兆円程度としました。これは前の中期防(約27兆円)の約1.6倍にあたります。2027年度の防衛関係費は8兆9,000億円程度とされ、海上保安庁の予算や研究開発、公共インフラなど安全保障に関連する経費と合わせて、GDP比2%の水準に達することを目標にしました。
③ 7つの重点分野
防衛力整備計画は、将来にわたって重視する能力として次の7つの分野を挙げ、それぞれに経費の目安を示しました。
【表2】防衛力整備計画の分野別の経費(5年間・契約ベース)
| 分野 | 5年間の経費 | 主な内容 |
|---|---|---|
| スタンド・オフ防衛能力 | 約5兆円 | 12式地対艦誘導弾能力向上型、トマホーク、島嶼防衛用高速滑空弾 |
| 統合防空ミサイル防衛能力 | 約3兆円 | イージス・システム搭載艦、迎撃ミサイル、極超音速兵器への対処 |
| 無人アセット防衛能力 | 約1兆円 | 各種の無人機(空・水上・水中) |
| 領域横断作戦能力 | 約8兆円 | 宇宙 約1兆円、サイバー 約1兆円、車両・艦船・航空機等 約6兆円 |
| 指揮統制・情報関連機能 | 約1兆円 | 統合作戦司令部の創設、情報収集・分析の強化 |
| 機動展開能力・国民保護 | 約2兆円 | 輸送船舶・航空機の増強、住民避難への協力 |
| 持続性・強靱性 | 約15兆円 | 弾薬・誘導弾 約2兆円(他分野を含め約5兆円)、装備品の維持整備・可動確保 約9兆円、施設の強靱化 約4兆円 |
このほか、研究開発に約3.5兆円(他分野を含む)が充てられています。弾薬の不足や、部品不足で装備品が動かせない状態、基地の脆弱さといった、これまで手薄だった「継戦能力」の強化に最も多くの予算が割かれている点が特徴です。
3. 財源
政府は、増額分の財源として、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を集めた「防衛力強化資金」に加え、税制措置で確保するとしました。税制措置については、法人税とたばこ税の上乗せが2026年4月から始まり、所得税については2027年1月から税率1%の付加税を課すことが、与党の税制改正大綱で決まりました。
4. その後の動き:2%の前倒しと3文書の改定
2025年10月、高市首相は所信表明演説で、GDP比2%の水準を2025年度中に前倒しで達成する方針を表明し、補正予算などで措置するとしました。また、3文書を2026年末までに改定する予定です。2026年8月に公表された2027年度予算の概算要求は過去最大の約8兆8,908億円となりましたが、3文書の改定で決まる事項は含まれておらず、さらに増える見込みと報じられています。
改定では、AIや無人機を使った新しい戦い方への対応、長期戦に備えた物資の確保や輸送力の強化、スタンド・オフ防衛能力のさらなる強化などが論点に挙がっています。米国が同盟国にGDP比5%などの水準を求め、NATO諸国や韓国が3.5%を中長期の目標とするなか、日本が新たにどのような目標を設けるかが焦点です。なお、現行の2%は2022年度の名目GDP(約560兆円)を基準にしており、足元のGDPは約688兆円に拡大しています。
5. 主な論点
支持する立場の主な主張
- 厳しさを増す安全保障環境:ロシアのウクライナ侵略、中国の軍事力の急速な強化、北朝鮮のミサイル発射の多発に現実的に対応する必要がある。
- 継戦能力の確保:弾薬や部品の不足、施設の脆弱さを改め、実際に戦い続けられる防衛力にする。
- 日米同盟の抑止力:日本が自ら反撃能力を持つことで、同盟全体の抑止力が高まる。
懸念・批判
- 財源と増税:増税の時期や、社会保障・教育などの予算との優先順位をめぐる議論が続いている。
- 専守防衛との関係:反撃能力が先制攻撃と受け取られ、周辺国との軍拡競争を招くおそれを指摘する声がある。
- 決定の過程:国会での十分な審議を経ずに閣議決定で大きな方針転換が行われたとの批判がある。
6. 関連装備・政策へのリンク
- ▶ トマホーク巡航ミサイルとは?反撃能力の早期獲得
- ▶ 12式地対艦誘導弾(能力向上型)とは?
- ▶ 統合作戦司令部(JJOC)とは?指揮統制機能の刷新
- ▶ 能動的サイバー防御(ACD)とは?領域横断作戦の法改正
7. 公的出典・参考資料
- 内閣官房「防衛力整備計画について」(令和4年12月16日 国家安全保障会議決定・閣議決定)(cas.go.jp)
- 防衛省「防衛力整備計画について」2022年12月(分野別経費)(mod.go.jp)
- 防衛省「防衛力整備計画 XIII 所要経費等」(mod.go.jp)
- 日本経済新聞「防衛増税 たばこ・法人、26年4月開始」(nikkei.com)
- 東京新聞「防衛費のために2027年1月から所得税を増税 税率「1%」」(tokyo-np.co.jp)
- 日本経済新聞「高市早苗首相、防衛費2%水準「25年度中に前倒し」 所信表明演説」(nikkei.com)
- Bloomberg(Yahoo!ファイナンス)「防衛予算は過去最大8.9兆円を要求、安保3文書改定でさらなる増額も」2026年8月31日(finance.yahoo.co.jp)
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