PAC-3(パトリオット)とは?日本のミサイル防衛システムと射程・配備場所を解説

pac3_patriot_missile_jasdf(※画像はイメージ・AI生成コンセプトアートです)

📌 結論・ポイント(3行要約)

  • 弾道ミサイル防衛の「最後の盾」:PAC-3は航空自衛隊が運用する地対空誘導弾ペトリオットの弾道ミサイル対処用ミサイル。イージス艦のSM-3が大気圏外で迎撃し、撃ち漏らしたミサイルを大気圏内でPAC-3が迎撃する「二段構え」の下層を担う。
  • 能力向上型PAC-3 MSEへの更新:ロケットモーターを大型化して迎撃範囲を広げた改良型。2020年に習志野・浜松・芦屋・築城や防衛省(市ヶ谷)への配備が報じられ、令和7年度予算でも435億円が計上された。
  • 米国への輸出:2023年12月の防衛装備移転三原則の運用指針改正でライセンス元国への完成品の移転が可能になり、2025年11月に米国への輸出が発表された。
目次

1. PAC-3(ペトリオット)とは

ペトリオット(Patriot)は米国で開発された地対空ミサイルシステムで、目標を探知するレーダー、射撃を管制する装置、発射機、ミサイルなどで構成されます。日本では航空自衛隊の高射部隊が運用しており、もともとは敵の航空機を撃ち落とすことが主な役割でした。

PAC-3(Patriot Advanced Capability-3)は、このペトリオットを弾道ミサイルにも対処できるようにした能力向上型のミサイルです。目標の近くで爆発して破片で壊す従来の方式ではなく、ミサイル本体を目標に直接ぶつけて破壊する「直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)」方式を採っているのが大きな特徴です。

ミサイルは米ロッキード・マーティン社が主契約者として開発したもので、日本では三菱重工業がライセンス生産しています。国内でPAC-3 MSEを製造できる企業は三菱重工業だけとされ、同社は世界のペトリオット用部品の供給網でも重要な役割を担っています。

2. 日本のミサイル防衛での役割

日本の弾道ミサイル防衛(BMD)は、海上と陸上の二段構えです。まず海上自衛隊のイージス艦が、大気圏外を飛行している段階の弾道ミサイルをSM-3で迎撃します。これで撃ち漏らした場合に、大気圏内に再突入して落下してくるミサイルを航空自衛隊のPAC-3が迎撃します。

【表1】弾道ミサイル防衛の二段構え

迎撃の層 担当 迎撃ミサイル 迎撃する段階
上層 海上自衛隊 イージス艦 SM-3 大気圏外を飛行している段階(ミッドコース)
下層 航空自衛隊 高射部隊 PAC-3/PAC-3 MSE 大気圏に再突入して落下する段階(終末段階)

PAC-3が守れる範囲は、広い海域をカバーするイージス艦に比べて限られます。このため、首都圏や重要な施設など、守るべき拠点の近くに展開して迎撃に備える「拠点防護」が基本となります。北朝鮮の弾道ミサイル発射が予想される場面などでは、防衛省(東京・市ヶ谷)の敷地などに展開することもあります。

2022年12月に策定された防衛三文書では、弾道ミサイルだけでなく巡航ミサイルや極超音速兵器、無人機なども含めた空からの脅威に一体的に対処する「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」の強化が打ち出されました。PAC-3 MSEの取得も、この統合防空ミサイル防衛能力の強化の一環として予算化されています。

3. 配備の歩み

航空自衛隊の高射部隊は「高射群」と、その下にある「高射隊」で構成され、高射群は全国に6つ編成されています。このうち埼玉県の入間基地に司令部を置く第1高射群は、首都圏の防空を主な任務としています。2018年12月の防衛計画の大綱では、将来の体制として「4個高射群(24個高射隊)」が示されました。

【表2】PAC-3をめぐる主な出来事

時期 出来事
2007年3月 航空自衛隊入間基地(埼玉県)にPAC-3を初めて配備
2008年9月 米ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場で、航空自衛隊として初めてPAC-3の発射試験を実施。模擬の弾道ミサイルの迎撃に成功
2008年 首都圏とその周辺に4システムを配備。2011年までに全国の基地へさらに7システムを配備する計画が示された(米陸軍)
2018年12月 防衛計画の大綱で、将来の体制を「4個高射群(24個高射隊)」とする
2020年6月まで 能力向上型のPAC-3 MSEを習志野(千葉)、浜松(静岡)、芦屋・築城(福岡)に配備(報道)
2020年7月 防衛省(市ヶ谷)の敷地にPAC-3 MSEを設置(報道)
2022年度予算 「能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)の取得等」に159億円を計上
2023年12月 防衛装備移転三原則と運用指針を改正し、PAC-3の米国への移転を発表
2025年度予算 統合防空ミサイル防衛能力の強化として「PAC-3MSEミサイル」に435億円を計上
2025年11月 官房長官が、航空自衛隊が保有するPAC-3の米国への輸出を発表
2025年12月 防衛装備庁が三菱重工業とPAC-3 MSEの契約を締結(約434億円、報道)

2020年の報道によると、当時は全国17か所に34基のPAC-3の発射機があり、その多くは従来型でした。その後も予算で毎年のようにPAC-3 MSEの取得が計上されており、従来型からの置き換えが進められています。

4. 能力向上型「PAC-3 MSE」とは

PAC-3 MSE(Missile Segment Enhancement)は、従来型のPAC-3を改良したミサイルです。より大型で強力な2段式(デュアル・パルス)の固体ロケットモーターと、大きな操舵翼を備えており、より遠く、より高い場所で迎撃できるようになりました。米国の資料では、射程が最大で約50%延びたとされます。一方で、日本政府はPAC-3やPAC-3 MSEの具体的な射程や迎撃高度を公表していません。

【表3】従来型PAC-3とPAC-3 MSEの比較

項目 PAC-3(従来型) PAC-3 MSE(能力向上型)
ロケットモーター 固体ロケットモーター 大型化した2段式(デュアル・パルス)の固体ロケットモーター
射程・迎撃高度 非公表 非公表。従来型より拡大(米側資料では射程が最大約50%延伸)
迎撃方式 直撃破壊(ヒット・トゥ・キル) 直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)
日本での配備 2007年から 2020年までに4基地と市ヶ谷に配備(報道)、以後も取得を継続

5. 米国への輸出

2014年に定められた防衛装備移転三原則のもとでは、外国企業のライセンスを受けて日本で作った装備(ライセンス生産品)については、米国由来の部品に限って移転が認められていました。2014年7月には、PAC-2の誘導装置に使う部品の米国への輸出が認められています。

2023年12月22日、政府は三原則と運用指針を改正しました。これにより、米国以外からライセンスを受けた装備も含め、部品だけでなく完成品もライセンス元の国へ移転できるようになりました。政府は同日、PAC-3のミサイルを米国へ移転することを明らかにしました。殺傷能力のある完成品の武器の輸出は、これが初めてとされます。

2025年11月20日、木原稔官房長官は記者会見で、航空自衛隊が保有するPAC-3を米国に輸出したと発表しました。数量は公表されていません。防衛省は、輸出したミサイルは米軍が使用し、第三国には提供されないと説明しています。報道では、ウクライナへの支援を続ける米軍の在庫を補う意味合いがあると分析されています。

6. 課題と論点

  • 守れる範囲:PAC-3は拠点防護が基本で、一つの部隊が守れる範囲は限られる。全国の重要な場所すべてを同時に守ることは難しい。
  • 新しい脅威への対応:低い高度を変則的な軌道で飛ぶとされる弾道ミサイルや、極超音速兵器、多数のミサイルを同時に撃ち込む飽和攻撃への対処が課題となっている。防衛三文書が統合防空ミサイル防衛の強化を掲げたのもこのためである。
  • 生産と在庫:ウクライナでの戦争などを受けてPAC-3 MSEの需要は世界的に高まっており、米国では増産に向けた契約が進んでいる。日本の生産能力や在庫の確保も重要になる。
  • 輸出の位置づけ:米国への輸出は、日米同盟の強化や防衛産業の維持につながるとの評価がある一方、間接的に紛争に関わることにならないかと懸念する見方もある。

Q. イージス艦(SM-3)とPAC-3の役割の違いは何ですか?

イージス艦のSM-3は、大気圏外を飛行している段階の弾道ミサイルを迎撃します。PAC-3は、SM-3で撃ち漏らして大気圏内に落下してくるミサイルを、守るべき拠点の近くで迎撃します。二段構えで迎撃の確率を高める仕組みです。

Q. PAC-3の射程はどのくらいですか?

日本政府はPAC-3の具体的な射程や迎撃高度を公表していません。能力向上型のPAC-3 MSEについては、米国の資料で従来型より射程が最大約50%延びたとされています。

Q. PAC-3はどこに配備されていますか?

航空自衛隊の6つの高射群が全国に配置されています。報道では、2020年までにPAC-3 MSEが習志野、浜松、芦屋、築城の各基地と防衛省(市ヶ谷)に配備されたとされています。

7. 関連装備・政策へのリンク

8. 公的出典・参考資料

  • 財務省「令和7年度防衛関係予算について」ファイナンス2025年4月号(mof.go.jp)
  • 財務省「令和4年度防衛関係予算について」ファイナンス2022年4月号(mof.go.jp)
  • 「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」2018年12月18日(データベース「世界と日本」)(worldjpn.net)
  • 米陸軍「Missile Defense History: Japan conducts first international test of the PAC-3」(army.mil)
  • 乗りものニュース「「PAC-3をアメリカへ輸出」=安保政策の大転換!」2024年1月1日(trafficnews.jp)
  • 乗りものニュース「首都圏を守る! 切り札は「ペトリオット」航空自衛隊第1高射群の役割」2022年6月25日(trafficnews.jp)
  • しんぶん赤旗「PAC3 入間に初配備へ」2007年3月20日(jcp.or.jp)
  • Missile Defense Advocacy Alliance(朝日新聞記事の転載)「New interceptor missile installed on ministry site in central Tokyo」2020年7月14日(missiledefenseadvocacy.org)
  • Militarnyi「Japan Signs $275M Deal With Mitsubishi for PAC-3 MSE Missiles」2026年3月9日(militarnyi.com)
  • GlobalSecurity.org「Patriot Advanced Capability-3 (PAC-3) Missile Segment Enhancement」(globalsecurity.org)
最終更新日:2026-10-14

🛡️ DEFENSE NAVI 編集室(調査・監修)

当解説は、防衛省・防衛装備庁などの公的機関が公表した資料をもとに、DEFENSE NAVI編集室が作成・更新しています。誤りにお気づきの場合は、お問い合わせフォームからお知らせください。

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